【着 想】
バックロードホーンは、組み立てが難しかったり、ボディが大きくなったりするため、市販品ではほとんど見かけませんが、独特の鳴り方はとても魅力的です。
一般にスピーカーは木の板を直方体形状に組み立てますが、バックロードの場合、ホーンを直方体に収めるために、断面が四角形になったり、無理な曲げ方をしたりするため、癖のある音が出る場合もあるようです。
そこで私は塩ビ管に着目して、これらを組み合わせて、バックロードホーンを作ってみることにしました。塩ビ管には様々な太さのものがあり、異なる太さの管をつなぐようなパーツもあります。また、断面は楽器と同じく効率の良い円形断面で、ホーンの曲がり方もスムーズなので、ホーンを構成するには格好の素材のように思われます。簡単に組み上げられることも大きな魅力です。
【試 聴】
試聴にはボーカル曲、ピアノ曲、アコーディオン曲を用いて、塩ビ管部品の最適な組み合わせを探索しました。その最終結果が画像1に示したものになります。
鎌首をもたげた蛇がトグロを巻いたような見た目に違和感を覚えるかもしれませんが、出てくる音は、ユニットから出る中高音とホーンが補強する低音がうまくバランスしています。適切な表現が難しいのですが、高音から低音まで音の出方が揃っており、スピーカー全体で音が鳴っているように感じられます。また、ホーンらしい押し出しとキレもあり、躍動感のある鳴り方をしてくれます。
懸念していた管共鳴などの癖はあまり感じられず、着想で述べた塩ビ管の効用が実現できているのではないかと思います。
【感 想】
バックロードホーンに塩ビ管を用いると、合理的なホーン形状が実現できることを着想で述べましたが、音質の微調整が可能であることが非常に大きなメリットであることを今回の製作を通じて痛感しました。
メーカーでは1つの製品を販売するのに、寸法の異なるキャビネットをいくつも作って比較しますが、自作ではコストと時間の制約上、そこまで追い込むことはとても困難です。
設計手法が確立されたバスレフ式や密閉式ならまだしも、バックロードホーンを木の板で作るとなるとほぼほぼ一発勝負で、博打の感が無きにしも非ずです。それが塩ビ管を使えば、パーツを変えることによってホーンの長さや太さを簡単に調整することができます。
実際、ここで紹介した部品構成は、最初からこのように決めていたわけではなく、比較試聴の末にこのような組み合わせにたどり着いたものです。
今回、たった1つのパーツを追加あるいは撤去するだけで、「ここまで鳴り方が変わるんだ!」ということを実感して非常に驚くとともに、「これまで木製のスピーカーをほぼ一発勝負で製作してきたのはいったい何だったのだろう?」「最適設計とは程遠いものを作ってきたのでは?」と、自分の不明を恥じることになりました。